女子高生のラブホ日記

舞は半分本気で冴子に食ってかかる。

ともに遊び好きでいて性格のちがう二人にとって、こんな冗談半分の小競（こぜ）りあいは日常茶飯事だ。

由布子もそれを知っていて、別段、気にとめる風もない。

が、心のなかでは、一抹のさびしさを感じていた。

ＢＦもいない由布子は二人の会話に入っていく術がないからだ。

「悟くんて、すごくテクニシャンなんじゃない？ギター弾くときの指の動きなんか見てると、あれのときのテクもソートーなモンじゃないかって思えるけどな。あっやめてよッ！」

舞が冴子の顔面にサンドイッチを投げつけた。

冴子は柔らかい芝生の上に仰むけにひっくり返って、大口あけて笑っている。

由布子たち三人が通う県立Ｙ校は、小高い丘を背にして建っている。

校舎の裏にまわると、はやくもそこはゆるい芝生の斜面になっていて、三人は、そこで昼食をとることに決めていた。

かくれタバコや秘密の逢引きなどを目的とする生徒以外は、めったにやってこない場所だ。

Ｙ談をしようが、大さわぎをしようが、誰にとがめられる心配もなかった。

「あはは……ああ……疲れたあ……」

ひとしきり笑ったあと、冴子がムクリと起きあがった。

「なにが疲れたよ！人のことからかっといてッ」舞はまだムクれている。

「あっは……でも、舞、あんた悟くんのこともっと大事にしてあげたほうがいいよお。目立つコだから、油断してるとほかのコ、新入生のかわいい女の子に取られちゃうから」

「そりゃどうも。ご忠告ありがとさん」舞がすねたように横を向く。

ボブのストレートという髪型のせいもあるが、舞はどこかクレオパトラめいたイメージの人目を引く美少女だった。

舞のＢＦ、田村悟は、由布子と冴子にとってもクラスメイトだ。

ロック研の部長で、おもに『デュラン・デュラン』とやらのコピーを手がけている。

男としては多少たくましさに欠ける体つきだが、風見慎吾風のルックスがウケて、女生徒たちに人気がある。

舞自身も、週に一度ぐらいはラブレターがまいこむといったようなモテぶりだ。

無下（むげ）に断わるのも悪いから――と言いながら、舞はそれらの男たちとも同時進行でつきあっている。

しかし、じつをいえば、多数の男たちとつきあうことが楽しくてしかたないのだ。結局のところ浮気好きなのである。

モテるといえば、冴子も負けはしなかった。

きわめつけの美人ではないが独特の雰囲気――夢二ばりのしっとりした色気のようなものをもった冴子には、上級生や教師がしきりに声をかけた。

が、冴子は決して誘いにのらなかった。身もちがかたいわけではない。

「高校生のボーヤなんて、願いさげよ」

と平然と言ってのける。

それもそのはず、冴子はもっぱら三十過ぎの中年男とばかりつきあっている。

中三のとき処女を捧げた男は、三十五歳のアドマンだった。そして、いま四十に手が届きかけている妻子もちとつきあっている。

「ところで、冴子。パトロンとはウマくいってるの？このごろ、話題にしないけど」

舞は、ことさらパトロンの部分を強調して尋ねた。

さっきからかわれた仕返しのつもりだった。冴子はあからさまにイヤな顔をする。

「パトロンじゃないって言ってるでしょうが。普通の恋人よ、年が離れてるだけの、ね！」

「へえ、奥さん子供がいるのにィ？」

「っさいわね！」

「そんなキンツマばっかしてると、いまに泣くことになるわよ。不倫なんて暗くてヤダヤダ」

「よけいなお世話！あたしのこと心配するヒマがあったら、由布子に男でもまわしてやればッ」

いきなり話がこちらに向いてきたので、由布子は面くらった。

「そ、そんなこと、いらないわよ……」

冴子がズイッと顔を近づけてくる。

「由布子だって、ブスってわけじゃないんだから、もっちょっとその気になれば、男くらいすぐできるんだよ。このままじゃいまにバージン、カビはえちゃうゾ」

「ホント、ホント。いっそあのＢＭＷに決めて、あげちゃえば？いまなら、ちょうどイイ喪失時（そうしつどき）ヨ」

どうやら二人がかりで由布子をいじめることになったらしい。

「ちょっと待ってよ。あたしだっていろいろ考えてはいるんだから……」

由布子自身、ＢＦはほしかったし、ＳＥＸにもかなり興味はあった。

正直のところ、自分だけが処女であることに、取りのこされたようなくやしさと、うっとうしさを感じていることも事実だ。

――あたしだって、舞や冴子に混じって、男としたこと、話したいわよ！

由布子は心のなかで叫んでいた。

そんな由布子の心を知ってか知らずか、二人はさらにたきつける。

「まあね、きっと由布子のことだからぁ。せっかく好きになってくれる男があらわれたのに、ウダウダしてチャンスをのがしちゃうのが関の山だね。かわいそうに……」

冴子の毒舌はいつものことだったが、なぜかカチンときた。

「なによッ！もう、バカにしてッ。いいわよ、やってみせるわよ！バージンなんか惜しくないんだからッ」

あまりの由布子の剣幕に、今度は舞がたじろいだ。

「ちょっと本気なの？熱くなんないでよ、由布子……バカね」

「熱くなんかなってないよッ。今度、あの良明ってＢＭＷの男に会ったら、ぜったいやってやる」

「ようし！その話、のった！」

冴子が突然芝生を叩いて、叫んだ。

「あさっての土曜、また六本木行こう。由布子、あいつの名刺もらったんだろ？あたし呼びだしてやるよ」

「なっ……」由布子が口を開きかけたとき、チャイムが鳴った。午後の授業が始まる。

「さ、行こ。数IIｂの佐藤、遅れるとうるさいからね。急がなきゃ」

「あっ待ってよ、冴子ったら！あたし、そんな約束しないからねッ！」

由布子はあわてて怒鳴ったが、冴子はふり向きもせずに、校舎のなかに消えていく。

その後ろ姿を追いかけながら、由布子は心のなかでつぶやいていた。

――そうよ……べつにＳＥＸしたって悪いことじゃないわ。あの男――良明にあげたってかまわないんだ……。

追いぬきざま、舞が軽く肩をたたいていった。

---

――とうとう、来てしまった。

フロアをゆるがすほどのサウンドが、耳に痛い。

ミラーボールの輝きを見つめていると気分が悪くなる。

ボックスに腰を下ろしたまま、由布子は後悔していた。

――ぜったいロストバージンしてやる、なんてバカなこと、言わなきゃよかった。

体をくねらせて踊り狂っている冴子を横目でにらんでやる。

舞はやや、好みのタイプを見つけたらしく、その男と向き合って軽快にステップを踏んでいる。

が、突然動きを止めると、由布子のほうにもどってきた。

少しぬるくなったオレンジシュースを一気に飲みほすと、由布子の耳もとで怒鳴った。

「ＢＭＷのやつ、遅いわね。ＴＥＬしてから一時間以上たつのにッ！」

由布子も負けずに怒鳴りかえす。

「そのＢＭＷって呼び方、悪いわよおッ」

「えっ、なあにィ？よく聞こえないッ」

声を張りあげないと、言葉が聞きとれない。

ディスコ体験二度目の由布子には、そんな怒鳴りあいの会話がどうも馴染めなかった。

と、フッと音がとぎれ、チークタイムが始まった。

さっきまで一緒に踊っていた男が舞を誘いだした。

それといれ替わりに冴子がボックスにもどってくる。

「ねえ、一緒に踊ろうよ」

見るからに軽そうな男が二人、由布子に声をかけてきた。

救けを求めるようにふり返った由布子に、冴子は首をふってみせる。

「由布子だけ行っといでよ。あたし、チーク嫌い！」

「冴子が行かないなら、あたしもパスするわ。ゴメンね」

「なんだい……いいじゃんか。きみだけでもおいでよ」

由布子は、どちらかというとハンサムでないほうの男に、強引に連れだされてしまった。

大学生風の男は、ことさら体をすり寄せるようにし、由布子をリードした。

――いやだッ。もっと離れてよ！

男の胸に腕をつっぱり、なるべく体を離そうとする由布子を、男はさらにきつく抱こうとする。

――ちょっと、やだあ……。

と、そのときだった。

由布子は、なにかカタいものが腹部にあたるのに気づいたのだ。

それの正体がわかり、思いきり男の体を押し返そうとしたとき、由布子は見た。

男のズボンの前が見事にテントを張っている――！

「どうだった？はじめてのチーク。けっこう、くっついて踊ってたじゃない」

逃げるようにもどってきた由布子を、冴子がひやかす。

由布子は本気でかみついた。

「冗談じゃないわ！あの男、立ってたんだからッ」

「立ってたって、なにが……」

「アレよ、アレ！あーッ、思い出しても寒けがする」

冴子が笑いころげた。

しかし、由布子にとっては笑うどころではない。

そのとき――。

「どうしたの？ずいぶん、楽しそうだね」

突然の男の声に、由布子は、またチークの誘いかと胸がムカついた。

考えるより先に言葉が出ていた。

「あんたなんかに関係ないわよ、さっさと……」

言葉なかばで由布子の顔がこわばった。

そこに立っていたのは、良明だったからだ。

「あら……ようこそ。ごめんなさい、わざわざ来ていただいて……あ、ここに、どうぞ」

冴子がすかさず、良明に場所をあけた。

由布子は何をどう言ったらよいのか、言葉も出ない。

そんな由布子を尻目に、冴子は一人でしゃべりまくる。

「いまの……気にしないでくださいね。

由布子ったら、少し舞いあがっちゃってるの。ちょっとした誤解なんです。

ほら、由布子も座りなさいな」

しかたなく腰を下ろす。

と、良明が真正面から由布子を見つめ、目を細めて笑った。

由布子はドキリッとする。

今夜の良明は、一週間前とは比べものにならないほどファッショナブルだった。

白のマオカラージャケットに、ラメ入りの細身のパンツ。

そんなスリムなスタイルに、ムースで固めた髪がじつによく似合っている。

これが、あのくたびれたスウェットスーツの男と同一人物とはとても思えないほどだ。

――ス、テ、キ……。

由布子は小さくため息をついた。

「ステキだわ、良明さんて。ものすごくセンスいいんだあ。これなら、どんな男でもかなわないわ」

冴子にベタほめにされて、良明は少しテレたように、

「そう言ってもらえるとうれしいね。いや、ＴＥＬで『マハラジャ』だって聞いたから、若いヤツらに負けちゃくやしいと思ってね。気ばってきたんだ」

「あら……良明さんだって若い人、でしょう」

「まさか……二十七だぜ。もう、きみらから見ればオジンどころか化石の部類、さ」

「そんなこと……」

冴子が口に手をあてて、お上品に笑った。

ふだんの冴子なら決してやらない仕草だ。

良明がこの場に現われた、その瞬間から冴子はおとなしげなお嬢様に変身してしまったのだ。

いつもの毒舌家ぶりなどおくびにも出さない。

――オッドロキ。舞の言ってたとおりだわ。

冴子のあまりにも見事な豹変ぶりに、由布子は驚きあきれた。

舞がことあるごとに口にする『冴子ったら、男の前と女の前じゃまるっきり態度がちがうんだからッ！』というグチ。

それが真実であったことにひとり納得しながら、ただただ良明と冴子のやりとりを呆然とながめるだけの由布子である。

もともと顔立ちが日本美人型の冴子であるから、今夜のように総レースのブラウスに黒のセミロングスカート、髪にリボン……なんぞというスタイルでキメれば、それだけで、立派な上品娘になる。

冴子自身、そういった自分の魅力をよく心得ていて、男の前では決してふだんの自分を出さない。

あくまで上品なお嬢様に徹するのだ。

冴子は、この手でいままで多くの男たちをだましてきた。

男の年齢が上れば上るほど、この方法は効果があった。

いまのパトロン、いや恋人も、当然、この手で落としている。

良明と冴子のとりとめのない会話が続いている。由布子はそっとため息をもらした。

そんなようすを、舞は男にもたれて踊りながらながめていた。

――まったくッ！冴子のヤツ！いっつも男の前だとお嬢様ぶるんだからッ。

冴子のこのやり口に、いつも腹を立てている舞であった。

この方法で、パートナーであった男を横取りされたことが何度もある。

「ごめんね。ちょっと席にもどるわ。ツレが来たみたい」

名残り惜しそうな男を残し、舞はボックスにもどってきた。

最初に良明が顔を上げ、目をみはった。

「やあ……キメてるねえ。すごく似合うよ。オレンジ色……エキゾチックで……」

その夜の舞のスタイルは、上から下までオレンジ一色だった。

レーヨンのゆったりしたシャツに短いジャケットをひっかけ、ボトムはスリムパンツでキメている。

流行のエスニックなアクセサリーがボブの髪を引きたてて、いよいよ人目を魅く。

「どうもありがとう。ちょっと、ここ、座らせてね」

舞は無理やり、良明と冴子のあいだに割りこんでしまった。

冴子が不服そうな顔をする。

「はは……強引だね、舞ちゃんは。あれ、どうしたの？つまんなそうな顔して……」

突然、良明に話しかけられ由布子はたじろぐ。

「あ……あの、あたしも、もう少しオシャレしてくればよかったって、後悔してたの」

本心だった。

ピンクのニットワンピでキメたつもりが、舞や冴子の前では見る影もない。

学校から六本木（ここ）へ向かう途中、池袋のＳデパートのトイレで制服から着がえたとき、すでに冴子に馬鹿にされているのだ。

「もうちょっと考えて服を用意してきなよ。ま、こないだよりはマシだけどさぁ」

と――。

けれど良明は決してそんなことは言わなかった。

「そんなことないさ。女のコらしくて、由布子ちゃんに似合ってると思うよ」

なぐさめだとわかっていても、由布子はうれしかった。

そのとき、舞がいきなり立ちあがった。

「あーあ、今日はチーク長いなあ！ねえッ、つまんないから、もう出ない？良明さん、どっかイイお店、連れてって……。

なんだか、少しお酒飲みたい！」

そう言うと、舞は冴子にこっそり片目をつぶってみせた。

冴子がかすかに笑う。

由布子のロストバージンにむけて、二人とも着々と計画を進めつつあった。

---

由布子は、良明の体にもたれかかっている自分を感じた。

頭のなかがモヤがかかったようにハッキリしない。

ガクンと小さな衝撃を足元に感じた。

「さあ着いた。おりるよ。気をつけて……」

――ああ、エレベーターに乗ってたんだ。

なにがどうなっているのか必死で思い出そうとしたがダメだった。

良明に連れられ、カフェバーへ行き、甘いお酒を飲んだまでは憶えている。

が、いつのまにか記憶がはっきりしなくなり、舞と冴子がいついなくなったのか、それすら、わからなかった。

「よいしょっとっ」

体が柔らかい場所におろされる。ベッドらしかった。

「なるたけ楽にしたほうがいいからね」

良明の声……つづいて、体をいじられているカンジ……。

「あッいやッ……」

抵抗しようとしたが、良明はワンピースのスソに手を入れパンストをつかんだ。

そして一気に足首までズリおろすと、パンプスと一緒に足元からスルリとひきぬいた。

素肌の足を見られているのは少々恥ずかしかった。

「ごめん……なさい……あたし、酔っちゃって……あ……帰らなきゃ」

「無理だよ、こんな状態で。今夜は、オレの部屋でこのまま泊まるといい。きみの家には冴子ちゃんたちがうまくごまかしとくそうだから心配しないでいい」

「そんなの……ダメ……あッ、ん……お水、お水がほしい……」

喉がカラカラだった。

「ああ、いいよ。そのままで飲ませてあげるから」

起きあがってコップを受け取ろうとした由布子を、良明は手で押さえ、その上にのしかかっていった。

「うッううッ」由布子がうめいた。

良明の唇が由布子の唇をふさいでいる。

もがく由布子を無視するように、良明はその舌で由布子の唇を割りはじめた。

「うぐッ、うッ！」

歯がこじあけられたとき、由布子の口に冷たい水が流れこんできた。

良明の唾液も混じっているであろうその水を、由布子は夢中で飲んでいた。

「あッ……もっとッ、もっと、ちょうだいッ」

由布子はさらに水を求めた。

眉間にシワをよせた苦しげなその表情は、快感によがる女の表情とひどくよく似ている。

――バージン娘のこういう顔、たまらないぜ。

ゾクゾクしてくる。

良明は胸のなかでそうつぶやくと、卑下た笑いを浮かべた。

そんなことなど知らず、由布子はひたすら水を求めつづける。

中途半端に開けた口が、なぜか、ひどく淫らだった。

「わかったよ。あわてないで……いま、あげるからね」

今度は歯をこじあける必要などなかった。

由布子のほうから、水を含んだ良明の唇にむしゃぶりついてきたからだ。

「ああッもっと！もっとォ」

十回近くも、その行為がくり返されたろうか。

心ゆくまで水をむさぼった由布子は、やがてかすかな寝息をたてはじめた。

良明の口の端にふたたび卑下た笑いが浮かんだ。

整った顔立ちが、かえって冷酷な感じを与える。

しかし、由布子はそんなことなどまったく知るよしもない。

子供のような無防備な姿で安心して眠りつづける。

「どれ……オッパイちゃんから見せてもらうとするか」

良明の手が由布子の背にまわり、手慣れた様子でワンピースのファスナーを引きおろしていく。

チーッという独特の音がやけに大きく響いたが、由布子は目を醒ます気配もない。

スルリッとワンピースが肩から抜け、それは、そのままヘソのあたりまで引きさげられる。

「ここまでだ、な。これより下は、あとのお楽しみ……」

いまはまだワンピースに包まれたままの由布子の下腹部を思い描きでもしたのか、良明は独り笑いながら、自分のモノを撫でた。

はやくも、それはボッキしかけているにちがいない。

ブラジャーだけとなった由布子の上半身を良明はゆっくりと撫でまわしはじめた。

かすかに触れているかいないか、そんなきわどいタッチで、肩から鎖骨（さこつ）、そして胸のふくらみへとゆっくりと下りていく。

そのくすぐるような愛撫に、少し由布子が身じろぎをした。

「いい肌だ……白くてなめらかで、まだ男に一度もなぶられたことのない肌……感じてくるぜ……」

良明の額には細かな汗が浮きだしていた。

息使いが荒い。が、表情は異常にクールだった。

カチリッと小気味よい音とともに、ブラジャーのフロントホックがはずれた。

カップの山が左右にわかれ、白いバストがこぼれ落ちる。

高校生にしては豊かすぎるバストであった。

「……」

良明は声もたてず、しばし、それを食いいるように見つめ、やがて生唾を呑んだ。

「上物だな。どうだ、この乳首……完全に内部にめりこんでる。

一度も男に吸いだされたことのない乳首だ……。

待ってろよ。

いま、オレが外に出して、しゃぶりまくってやるからな」

バストの肉のなかに埋まりこんでしまっているかのような小さな乳首……桜色をしたそれを、良明は指できつくつまんだ。

「うッ、ううんッ」

由布子の体がピクリッとはねた。

が、目は醒めない。

相当に深く眠っているらしい。

「そう、そう。そうやって、しばらくおとなしくしておいで……」

指でつまみだした乳首に、良明は舌を近づける。

とがらせた舌先で、柔らかそうな乳首のてっぺんを軽く円を描きながら舐めた。

それと同時に、つまんだ指でもむようにする。

由布子の乳首は、それ自体グリグリと動きながら、良明の舌の愛撫を受けはじめた。

「あ……ああ……」

無意識ながら、由布子は下半身をよじらせてあえいだ。

感じはじめたのであろう。

その証拠に、由布子の乳首は良明の指のあいだで少しずつかたくなりつつあった。

やがて、それは良明がつまみだしていなくとも、しっかりと自分で顔を出しはじめ、そして、ついにはグリンピースほどの大きさのかたい桜色の突起に変わった。

そのツンと天井を指して立っている乳首を、良明は唇に含んだ。

そして舌を器用にとがらせ、乳首の先端をつつく。

「ああん……いやっ……ああ……」

由布子が大きく体をゆすった。そして、ゆっくりと、その目が開かれる。

「ああ……なにッ？あっああッ！」

しかし、自分の置かれている状況がまだ理解できないでいる。

ただ、どこからか感じる気持ちよい刺激にあえぐだけだ。

が――。

「えっ、あっあっ！いやあ――ッ」

すべてを理解した由布子は、必死で起きあがろうとした。

恥ずかしさと恐怖の入り混じった驚きに、頭のなかはパニック状態だ。

「いやッいやッ、いやあ――ッ」

「落ちつくんだッ」

良明は由布子の両肩をベッドに押さえこんだ。

同時に、下腹部にドッカとまたがる。

由布子の体は自由を失った。

その両眼から大粒の涙がこぼれ落ちる。

「ああ、やめて……やめて……お願い……」

良明の表情に優しげなものが浮かんだ。

さきほどまで由布子の体を品定めするような冷徹な目の色は姿を消している。

が、由布子を押さえこむ力は有無を言わせぬものであった。

「ごめん……きみが眠ってるあいだにこんなことして、ごめん……。

だけど、本気なんだ。本気で由布子ちゃんのこと、好きなんだよ。

こないだも、そう言ったろ。

こんな気持ちになったのははじめてだ」

「うそよッ、うそッ！お願いだから、離してよッ、いやよおッ、いやあ――っ」

「本当だよ。愛してるんだ。ねっ？やさしくするよ……だから……」

「あ……」

良明の顔が近づいてきた。

顔をそむけるまもないうちに、由布子は唇を奪われていた。

熱く、しっとりとした良明の唇が、由布子のそれをすっぽりとおおっている。

――ああッ。

さっき、口うつしで水をもらった記憶がよみがえってきた。

体の力がスッと脱けてしまうような感覚に、由布子はめまいに似たものをおぼえた。

「ううっう……」

首を激しく振って良明の唇を振りはらおうとした。

が、良明はそれをゆるさない。

それどころか、ふたたび由布子の歯を割って、舌を入れてこようとする。

必死で抵抗するのもかまわず力まかせに良明の舌は入ってくる。

そして、とうとう、その熱い舌が由布子の口のなかで、由布子のそれとからみ合った。

「ううーっ、ううッ！」

良明の舌は、由布子の口のなかをすみずみまで舐めまわした。

ときには舌をからみ合わせ、ときには喉の奥までも舌先を伸ばし、ときには上あごをこすりあげる。

そんな巧みなディープキスに、いつしか由布子は恥ずかしさもとまどいも忘れはじめていた。

――そうよ、あたし、この人にあげるって冴子に約束したんだわ。

別に、いま、こうしてたって、おかしいことじゃない。

由布子はぼんやりと考えた。

すると、急に気が楽になって、体の力が抜けた。

と、それを待っていたかのように、良明は唇を離し、体の位置をずらす。

「あっダメッ、恥ずかしい……やめてっ！」

乳首をくわえられまいとして、由布子はバストを手で隠した。

が、そんなものは、良明にすぐさまはらいのけられてしまう。

「あっ、ああっ、あ……いや……」

由布子は体をよじって、あえいだ。

すっぽりと良明の口にくわえこまれた乳首が、ズキズキと脈打っているような気がする。

良明がときおり舌をチロチロと動かすのが、たまらない。

「やめてえ……そんなことされたら、あたし、ヘンになりそう……ああッ」

乳首が一瞬強く吸われた。下半身がうずきはじめるのをどうすることもできない。

――ああっどうして、こんなに気持ちいいの。

由布子は、いつものオナニーのときのように大声をあげそうになるのをやっとのことでこらえていた。

やがて、良明は乳首を離した。

「やめないでッ、もっと吸ってッ、あっ……」

自分の言葉に驚いて、あわてて口を手でふさいだが遅かった。

――ああッ、あたし、どうして、こんなこと言っちゃったの。

恥ずかしい………。

由布子は耳まで赤くなっている。

良明にはそれがおかしかったが、何も言わず、腰のあたりで脱がすのをやめておいたワンピースを足から引きぬきにかかる。

「あッ、よしてっ」

由布子は声をあげただけで、もはや抵抗はしなかった。

「かわいいパンティだね、こういうのが好きなの？」

「いや……そんなこと……聞かないで……」

その日、由布子は一番お気に入りの淡いオレンジピンクのフリルがたっぷりついたパンティをはいてきていた。

「オレも好きだよ……こういう色……。でも、もっと派手なのもはかせてみたい……」

良明が、由布子の恥骨のもりあがり部分を軽く撫でた。

そして、その手は、そのまま両脚のあいだへと入りこんできた。

「……！」

由布子の全身がピクリと震えた。

「敏感だね。うれしいよ……」

良明の手がパンティにかかった。

「いや、脱がさないで！」

しかし、いとも簡単に、パンティが投げ捨てられた。

「だめっ、見ないでえッ！」

秘められた部分を隠そうと足を交差させたまま小さく震える由布子を、良明はゆるさなかった。

太股をつかみ、一気にひらかせる。

「ああーッ、いやあッ」

「柔らかそうなヘアだ……こんなにたくさん生えて……」

「ああ……」

陰毛がかきわけられる。恥ずかしさに泣いてしまいそうだ。

「ここ、だね。さわるよ……」

「あっああ！」

良明の指が、由布子のむきだしの突起に触れた。

「ああっ！だめっだめよおーッ！」

激しい痙攣にも似た快感が由布子の全身を襲っていた。

手足はあきらかにこきざみに震えている。

「かわいい……かわいいよ、こんなキレイなピンク色で……よく動くね………ああ、食べちまいたいくらいだ……」

「やめて……やめ、て……ああッ！」

快感と羞恥の狭間（はざま）で、由布子は叫ぶこともできず震えていた。

おのれの性器に注がれている良明の視線を痛いほど感じ、それがさらに由布子を燃えあがらせていった。

「見てはいや……見てはいやよおー！」

口とはうらはらに、あの部分は絶えまなくラブジュースを吐きだしつづけている。

由布子のそこは、もうすでに粘っこい液体でヌレヌレと光っていた。

――すごいな、こりゃあ。

良明はそれを見て、ひとり満足げに笑いながら、ゆっくりと口を近づけていく。

「あっ！待って……ああ……良明さんッ！」

良明の舌が突起に触れた。

その瞬間、ズキンと目の裏にひびくようなショックを感じ、一瞬、気を失いかけた。

想像していた以上に、その舌は熱く、柔らかく感じられ。

それがよけいに由布子を興奮させる。

良明の舌は、ゆっくりと由布子のもっとイイ部分をなぶりはじめた。

「ああ……あ……感じる……ああ……」

由布子は夢中でシーツをつかんでいた。

そうしないと、とんでもなくイヤらしい言葉を口にしてしまいそうなのだ。

ヘアブラシを使ったときの目のくらむばかりの快感がチラと頭をかすめ、由布子は身震いした。

もはや昂まりを押さえきれない。

「そこ……ああっ！イイ……すごく……あうっ」

ピチャ、ピチャ……

良明が舌を動かすたびに、淫らな音が由布子の耳を襲う。

それはしなやかなムチのように、由布子の隠された欲情を打ちすえ、目ざめのときを促している。

「ああっ、だめよ！これ以上されたら、あたし……ああっ！」

「これ以上したら、きみはどうなるの？言ってごらんよ。ちゃんと」

「あたし……ああっあたし……」

イっちゃう――という言葉をやっとのことで飲みこんだ。

「それ以上されたら気が狂っちゃう！もう、やめてッ」

「狂やしないさ……もっときみに感じてほしいんだ……もっと、乱れさせたい……」

「だめっ！あたし、ほんとにもうッ――」

由布子の言葉は途中でとぎれた。頭がガクリと後ろに倒れ、腰がエビのようにのけぞる。

「い……やあ……」

小さな悲鳴が洩れ、それは尾を引くような長く細いうめきに変わっていった。

かみしめた歯がカチカチと鳴っていた。

「う……ああ……あ……」

良明の唇は突起をスッポリくわえこんでいた。

そして、その唇の内部では舌が巧みに動きまわり、突起の先端部を責めている。

「うそお……しびれる……ああッ！」

愛液がほとばしりでた。

良明の舌が触れるたびに突起がピクピクとうごめくのが、自分でもはっきりとわかるほどだ。

「ああっ！もうだめえ――ッ、体が、バラバラになるッ、じっとしていられないのッ！」

由布子は無意識に腰を浮かし、そのまま左右に細かくゆすった。

突起をくわえこんだ良明の唇は、その動きに合わせるようにときおりパクパクと敏感な豆つぶを噛む。

「や……やめて……あたし……これ以上されたら……イっちゃう………イっちゃうッ！」

おのれの股間に埋もれている良明の頭を両手で押しのけようとしたが、少しも力は入らない。

その間にも、由布子の奥で熱いものがたぎり、いまにも放出寸前だった。

これがオナニーであったなら、とうに由布子は昇りつめていたろうに、いまはイクにイケない。

生殺しにされているようで恐ろしく、それがまた不思議な快感でもあった。

良明のクンニリングスは一時間近くも続けられたろうか。

由布子の体は絶頂の淵に立たされたまま、疲れ果てていた。

しかし、突起だけは別の生き物であるとでもいうように、まだヒクヒクと男を求めつづけている。

それに最後のひと舐めをくれた後、良明は舌を離した。

「あっあ……あたし……どうにかなっちゃう」

うわ言のようにつぶやきつづけている由布子の唇を、良明はふたたび吸った。

良明の腕のなかで由布子の体が激しく身悶えた。

――ああっ、いやっ。この唇、いままであたしのアソコを舐めていたんだわ。

処女らしい恥じらいと潔癖さから、由布子はそれを汚ならしく感じた。

が、その思いとは別に、体の奥は一段と火がついたように熱くなる。

充血しきった恥部は、良明を求めるかのように愛液を吐きだしつづけていた。

やがて唇と体を離した良明が、ベッドの脇で服を脱ぎはじめた。

そのあいだ、由布子はそちらに背を向けて体を丸め、きつく目を閉じていた。

いよいよの時が来た――そう思うと、いまさらながら逃げだしたいような気分になってしまう。

が、舞や冴子にあれほどハッキリと『処女喪失宣言』をした以上、ここで逃げだすわけにはいかないのだ。

――最後の最後で結局はやれなかった、なんてことになったら、冴子にまた何を言われるかわかったもんじゃないわ。

そう考えると、なぜか由布子も覚悟が決まった。

それに加えて、良明に愛撫され欲情した由布子の肉体は、無意識のうちにも良明との結合を求めていたのだ。

全裸になった良明が、由布子をふたたび仰向かせる。

由布子は目を閉じたまま、体をかたくしていた。

しかし、その幼い仕草に反して両脚のつけ根は愛液でしっとりと潤っている。

ヘアの茂みまでもが湿り気を帯びて濡れ光っていた。

良明は由布子のかたい体におおいかぶさり、濡れた茂みの奥へおのれの一物を差し入れる。

由布子の体は、さらに緊張した。恥ずかしい場所に触れている良明のペニスが、由布子が考えていたよりもずっと太く感じられたからだ。

――こんなのが入ってくるの？指だって入らなかったとこに……？

幾日か前のオナニーで指を入れそこなったときの痛みが、よみがえってくる。

由布子は、体の震えを止めることができなかった。

「こ……こわいわ……あたし、こわい」

良明は抱きすくめるようにして肌を密着させ、由布子の耳元に熱い息を吹きかける。

「こわがらないで……大丈夫だから……。いいかい？いくよ」

しかし、良明は由布子の答えなど待ちはしなかった。

下半身に力をこめ、それをゆっくりと押しだす。

きつく閉じていた由布子の両眼が、いまにも飛びださんばかりに見開かれ、それに少し遅れて、喉から絶叫がほとばしった。

「うわッ、ああ、あーッ！痛い！痛いっ！」

濡れた由布子の入口（ゲート）はなんなくペニスを受け入れ、そして、十七年間誰も通ることのなかった処女の門も、良明の力であっけなく破瓜していた。

良明が小さくうめいた。

一物は、由布子の熱く燃える粘膜の裂け目に根元まで埋まっている。

由布子が叫びもがくたびに、その裂け目は激しく脈動し良明を締めあげてくれた。

良明は満足げな笑いを浮かべた。

が、一瞬の後、なにかを思案しているような困惑の表情に変わる。

そのまま、やおら静かな腰の律動を開始した。

「あっー！ああッ、いやあーッ！」

由布子の腹部に激痛が襲いかかった。

生理痛にも普通の腹痛にも似ているようでまったくちがう。

どこがどう痛いのか自分でもよくわからなかった。

ただ下腹の奥が焼けるように痛む。全身に油汗が吹きだした。

「やめ……て……ああッやめて！いやッ、もうやめてえッ」

その攻撃を弱めようと、由布子は両腕に満身の力をこめて良明の胸を押し返した。

が、それはなんの抵抗にもならない。

少しずつだが、良明の突きは確実に強力なものになってくる。

「いやだッ！たすけてッ」

由布子は夢中で良明の胸をひっかいた。

みるみるミミズ腫れができあがっていく。

――追いつめられた猫だな、まるで……。

良明は、必死で爪の抵抗をくり返す由布子のせっぱつまったようすを無表情で見下ろしていた。

が、急になにを思ったか、その爪の攻撃からのがれるように上半身を由布子から離し、腰の動きも止めた。

「あ……ああ……」

由布子は小さくうめいて体の力を抜いた。

あれほど狂おしく良明をひっかいていた両手も、バタリッとベッドに落ちる。

まだペニスは埋めこまれたままだったが、律動が止んだことで苦痛は半分以下に減っていた。

由布子の顔に安堵の表情が浮かぶ。

それを待っていたかのように、良明はあらたな行動を起こした。

由布子の肩を両側からはさむような位置に両腕を突っぱり、それに体重をのせる。

自然と下半身が浮きあがり、由布子の裂け目からペニスが三分の一ほど抜けだしてきた。

「あ……なにするの？あたし、いや……もう、いや……お願いだから……」

由布子は怯えた目で良明に訴えた。

これから、またあらたな苦痛がおのれの体を襲うことを、女の本能で感じとっているのだ。

良明は、そんな由布子の訴えなど無視した。

突っぱった両腕と膝から下の部分だけで体を支えたまま、大きく腰をしならせ、由布子の秘部へ一気に股間部を打ちつけた。

「ひっ！」

吸いこむような由布子の悲鳴。

少しばかり抜けだしていた良明のペニスは、ふたたび由布子の裂け目の奥深く埋まりこんでいた。

が、良明は間髪を入れず腰を引きもどし、くり返し由布子の奥へと突入する。

「いやッ、ああ……あ……あううーッ！もうっ、いやッ、いやあーッ！」

長く尾を引く絶叫が部屋の空気を切り裂いた。

由布子の全身を、貫くような激痛と衝撃が駆けめぐっている。

はずみをつけたように勢いよく良明の腰がくりだされるたびに、腹部を突き破られるかと思うほどの痛みが襲う。

由布子は抵抗する余裕すらなく、ただやみくもに髪をふり乱し、シーツをわしづかみにして痛みに耐えるしかなかった。

「うッうわあー！だめッ、もうだめッ、お腹……お腹が裂けるッ！」

良明は一言も発しなかった。

ただひたすら、オットセイのようなスタイルで腰を前後させる。

たがいの粘膜が激しくぶつかり合うパシャッパシャッという耳ざわりな音。

そのたびに、良明のモノは由布子の奥を責め痛ぶった。

まるでバネ仕掛けのように規則正しい腰の動きは、まったく情け容赦がなかった。

いや、むしろ、良明の顔には嫌悪、いや憎悪を思わせる表情すら浮かんでいた。

やがて、その動きが前後の律動から回転運動へと切りかわる。

「お……ああッ、ひいーっ！」

由布子は断末魔を思わせる叫びを発して、そのまま体を硬直させた。

深く埋まりこんだペニスが、由布子の膣の内壁をこねくりまわす。

いまさっき傷つけ破られたばかりの処女膜。

その裂け口をさらに広げよとばかりに、良明は由布子の内部をえぐりつづけていた。

このままじゃ内臓がめちゃくちゃになってしまう――そんな恐怖に由布子は気が遠くなりかけた。

それは、ある意味で、平然と自分に苦痛を与えつづけている良明に対する恐怖、でもあった。

５

日曜の正午前。

東上線の急行下り電車は、後楽地へ向かうらしい家族連れで混みあっている。

由布子は、その騒々しさから逃げるような格好で、連結器脇のシートの隅でうつむいて座っていた。

少し、顔色が青い。

ゆうべ（いや、正確には今日、だが）良明の激しい行為になかば気を失うようなかたちで深い眠りに落ちた。

目覚めたときはすでに午前十時をかなりまわっていた。

由布子は、まだ眠ったままの良明にはなにも告げず、急いでマンションを出た。

もう二度とここへ来ることもない――と心のどこかで思っていた。

「かわごえ――かわごえ――。ご乗車お疲れさまでした。川越線ご利用の………」

構内アナウンスに由布子は立ちあがった。

きのう、舞や冴子とともにあれほど高ぶったはしゃいだ気分でホームをあとにしたこの駅。

だが、いま、由布子の心は沈んでいた。

由布子のロストバージン計画。それは冴子の冗談半分の茶化しから始まった。

けれど由布子自身、はじめて男に抱かれることにかなりの期待と、そして少しばかりの不安をいだきながら、その計画が成功することを願っていた。

そして、それはそのとおりになったのだ。

由布子は後悔していた。いや、どちらかというと呆然自失と言ったほうが、もっともいまの由布子の状態にあてはまっている。

「どうして、あんなつらい思いしなきゃならないの？」

改札をくぐり、バス乗り場に向かいながら、由布子は小さく声に出した。

両脚のあいだに、なにかはさまったような異物感と鈍い痛みが残っている。

あの苦痛を思い出したかのように肩を少し震わせて、今度は胸のなかで叫ぶ。

――あんなつらいことなら、もう二度とセックスなんかしない。

するもんか！

セックスをきれいごとでしか知らなかった由布子にとって、ゆうべの苦痛はかなりの衝撃であった。

想像していたのとは比べものにならない破瓜の激痛、そして、容赦なく由布子を責めさいなむ良明の腰の動きとその物に憑かれたような表情……。

すべてが、由布子にとっては恐ろしく淫らに思えてならなかった。

ただいまとも言わず玄関のドアをくぐった。このまま誰とも顔を合わさずに自室にこもりたかった。

が、階段を上りかけたとき、キッチンから手をふきふき現われた母親に見つかった。

「なんだ、ゆうちゃんなの。早かったじゃないの。ゆうべはどうだった？お勉強はかどったの」

ゆうべも、その前も、親たちには“冴子の家で三人で勉強する”と言ってあった。

舞などは、もうかなり前からこの手を使っている。

大きな建築設計事務所をやっている冴子の家は、両親ともに多忙で事務所に寝起きすることもあり、自宅には冴子ひとりで暮らしていることが多かった。

夜遊びのアリバイ工作に最適な家庭環境といえる。

「うん、まあね。テキトーに……」

由布子はふり返りもせず、あいまいに答えた。

ウソをついていることへの罪悪感に胸が痛む。

ましてや、ゆうべは男を知ってきたのだ。

「中間テスト、二十七日からって言ってたわよね。

ちゃんとガンバらなきゃダメよ。

せっかく舞ちゃんみたいな秀才の子とお友だちなんだから、教えてもらって」

「うるさいなあッ、わかってるよ。だから、これからすぐ部屋で勉強するんじゃないの！邪魔しないでよねッ」

母親の言葉を払いのけるようにじゃけんに言い捨てると、由布子は階段を駆け上った。

その背中に居間にいるらしい父親の怒鳴り声が追いかけてきた。

「由布子ッ！母さんに対して、その言い方はなんだ！

だいたい、若い娘が外泊ばかりしおってどういうつもりだッ」

「まあ、いいじゃありませんか。お勉強なんだし、もう由布子も子供じゃないんですから、ちゃんと良し悪しはわかってますよ」

「おまえは、すぐ甘いことを言う。そんなことだから、圭一が二年も浪人するんだぞッ」

矛先が兄に変わったことをさいわいに、由布子は自室に飛びこんだ。

両親をうっとうしく思う反面、言いようのない後ろめたさを感じて、しばらくはドアを背に立ちつくしていた。

６

小林冬人（ふゆと）は『Ｂ・バー』と描かれたドアを開けた。

コンクリートを打ちっぱなしにしたような荒けずりな内装は、ニューヨークのロフトを思わせる。

ボックスのあちらこちらで静かに会話を楽しんでいる客達（れんちゅう）は、みな見るからにクリエイティブな業界筋（エリア）に関わりを持つ人種らしい。

そのなかで、ひときわ目立つ長身の男がカウンターの小さな丸イスで氷の入ったグラスを舐めている。

良明であった。

冬人の姿を認め、手を上げる。が、背を丸めてカウンターに両肘をついた姿勢は変えなかった。

「よお。どうだった？埼玉の処女の味」

冬人は、良明の左隣りに座るか座らないかのうちに、そうささやいた。丸い小さな黒いサングラスにかくれた目はわからないが、口元には淫猥な笑いが浮かんでいる。

上から下まで黒ずくめのファッションで男としては華奢な体を包みこみ、髪は見事に短く刈こんでいる。

薄い唇と削（そ）げた頬が、どこかで冷酷な小悪党といった印象を人に与える。

一見して年齢不詳だが、良明の知るかぎりでは、まだ二十六、七といったところだろう。

「まあ、とりあえず飲めよ」

良明はポツリと答えた。

バーテンが冬人の前に置いたグラスにバーボンを注いでやる。

「なんだよ、沈んでるな。失敗したのか？電話じゃ、ずいぶん勝算のありそうなこと言ってたじゃないか」

冬人が意外そうな顔をした。良明は、きのう夕方、冴子からディスコの呼び出し電話を受けた後、冬人に連絡を入れていたのだ。

由布子をモノにする見込みがありそうなことも、ほのめかしていた。

その時点での自信ありげな様子とはうって変わった沈んだ口調で、良明はつぶやく。

「失敗ともいえないが、マズイことは確かだよ」

「やることは、やったのか？」

「ああ……やった。正真正銘の処女だったよ。ただ、少し力みすぎちまったのさ」

良明がゆうべの由布子との詳細を語るあいだ、冬人は黙って耳を傾けていた。

「おまえらしくないぜ。気絶するまで突きまくるなんざ……。処女にも苦痛を与えない――がおまえの十八番（おはこ）のテクだったじゃないか」

良明の処女の抱き方は、冬人も熟知していた。

甘言を弄しながら、男を知らぬ女の体を高みへと導く。

そして、苦痛を最小限にとどめるよう細心の注意を払って慎重に挿入してゆく。

決してハードな律動は加えない。そこには“いかにしてスムーズに破瓜を促すか”といった、欲望を満たす以上の芸術があった。

「おまえがトチ狂うほど、その由布子ちゃんとやらのオマンコ、よかったのか？」

「いや、そういうわけじゃない。感度はかなりのもんだったがな」

あらたなバーボンをグラスに注いでから、良明は続けた。

「前に話したろ。オレが高校時代つきあってた女のこと」

「ああ、あの、おまえの親父と密通してたって女か？」

「そうだ。オレとつきあいはじめてすぐ、あいつは自分から親父を誘ったんだ。

自分の息子のＧＦの誘いにのっちまう親父も親父だがな、誘うほうは、もっとどうかしてる！」

「ニンフォマニアってヤツだろ。男なら、誰でもいい、抱かれたくなっちまう」

「ああ、たぶんな。だけど。オレはあいつを普通の女だと信じて、半年以上もだまされてたんだ。お袋も店に出てることが多くて、まったく親父とあいつのことは気づいてなかった」

良明の実家は横須賀で魚屋をやっていた。

由布子に話した“資産家の後妻の連れ子”などというフレコミはまったくの口から出まかせである。

「で、それがどうしたってんだ？」

話しがなにやら由布子とは別の方向へ流れていることに気づいた冬人は、少々刺（とげ）のある言い方をした。

良明は気に止める風もない。

「まあ聞けよ。オレはゆうべ、あの子を抱いていて、なんか変だと感じたんだ。最初は気づかなかったが、あの子のよがり方があいつに似てたからなんだよ。声なんか、そっくりだった」
「ヘェー！それでナニかい、よみがえる昔の苦い思い出に、思わずわれを忘れてメチャクチャしちまったってワケか？笑わせるなよ」

冬人は茶化すように言うと、ハッハッハと笑い声をあげた。

「いや、別にそんなつもりはなかったよ。ただ、処女を突き破ってあの子が痛がりはじめたとき、急にもっと苦しめたいみたいなサディスティックな気分になっちまってさ。不覚だった。つぎは気をつけるよ」

「“つぎ”なんかあるのかい？その子、なにも言わないで帰っちまったんだろう、あんまりつらかったんでコリちまったんじゃないか？電話番号、聞いてないんだろ？」

「ああ……そうだ、学校は知ってるよ。県立の、たしかＹ高だったと思うが……」

最後の頼みの綱にすがるとでもいうような良明の表情に、冬人はなぜか笑いがこみあげてくるのを感じた。

「待ちぶせでもするか？そいつは最終手段だぜ。こっちから迫るやり方は、なるべく避けたいしな。むこうさんから電話が入るのを祈るしかないな、こりゃ」

なかばあきらめた――といったニュアンスを含んだ冬人の言（げん）に、良明の顔はさらに曇った。

――自己嫌悪の極みってツラしてるぜ。

コイツのこんな顔見るの、はじめてだな。

オレと会ったとき、もうすでにコイツは女に対してプロだった。

冬人は、良明の沈欝（ちんうつ）な顔を横目でながめながら思いを馳せた。

良明と冬人のつきあいはさほど長くない。

三年前、まだ良明が大手広告代理店のクリエーターであったころ、Ｋという化粧品メーカーの仕事を通じて知りあった。

冬人は助手に毛が生えた程度の新米カメラマンだったが、その本業とは別に、あるサブビジネスで多額の収入を得ていた。

二年前、良明は上司とのトラブルがもとで辞職し、フリーランスのデザイナーに転身した。

そのとき、冬人から“うまいボロもうけ”の話を持ちかけられたのだ。

サビビジネスの相棒をほしがっていた冬人にしてみれば、代理店時代から女殺しで有名だった良明は最高の人材といえた。

このときから、女を口説くことが良明の仕事になった。

おもに家出娘や夜の街を遊び歩くアーパー娘をひっかけては言葉巧みに話を持ちかけ、ビデオやファッションマッサージ、いわゆる風俗業界に斡旋する。

単純といえばしごく単純であり、リスクも高い“ボロもうけ”ではあった。

良明と冬人は本業ではもちろん、このサブビジネスにおいても最良のパートナーといえた。

もっとも、収入額のわりなどからいって、どちらが本業なのかわかったものではなかったが……。

「しかし、まあ、やっぱり処女をターゲットにするのは、むずかしいさ」

良明が依然、自己嫌悪の世界にひたっているので、しかたなく冬人はなぐさめめいた言葉を吐いた。

しかし、良明の表情に変化はない。

「まあ、おまえの気持ちはわかるぜ、アーパーギャルばっかじゃ、あっちゅうまに成功しちまって面白くもなんともねえもんな」

このところ、二人はいかにも遊んでるといった女に飽きあきし、ときおり、遊び慣れないいかにも処女らしい少女にねらいをつけている。

由布子も当然その口だ。

むこうから近づかせ、同情を誘う身の上話などで興味を持たせ、最終的には……。

成功率は低いが、そんなめんどうなやり口を、ことに良明は楽しんでいる風があった。

「そうクラくなるなよ。こないだのアキヨだっけか、千葉のコ。

あの子だってイイ線いっててダメだったしよ。運だよ、運」

いかにも楽天家らしい冬人の物言いに、良明の表情が柔らいだ。

少し皮肉な目で冬人をにらむ。

「ありゃあ、冬人、おまえが原因じゃねえか。おまえが勝手に横から手出ししなきゃ、上々の首尾でいけたんだぜ」

「しかたねえだろ。ああいうイモい子、オレの好みなんだ。ついムラムラっときて、あっなんだよ、もう出るのか？」

突然立ちあがった良明にならって、冬人も席を立った。

「ひとり逃がしたんだ。今夜じゅうに、埋め合わせ分、二人ぐらいひっかけとかないとな」

そう言った良明は、もうすっかりいつもの女殺しの顔にもどっていた。

---

「バッカねえっ！そんなのあたりまえじゃないの」

冴子の頓峡な大声に、ほかのテーブルの客たちがいっせいにこちらを見る。

ウェイトレスがいやな顔をした。

「処女なんでしょ。痛くないわけないじゃないの。そんなことで、もうしたくないなんてどーゆう神経してんのよ、このコは！」

ないしょ話ほど小声になった冴子が、由布子をにらむ。

「そうよ。なんたって、いままで何も通ったことないとこへアレが入ってくるんだもん、痛くなきゃヘンよ。あたしらだって、同じように痛くてつらいのガマンしてきたんだから」

舞までが冴子の意見を支持して、由布子の認識不足を責めた。

由布子はいまにも泣きそうな顔で、だがきっぱりと反論する。

「だって、だって……あんなお腹が破裂しそうに痛いなんて、ぜったいガマンできないよ。それに、あんなメチャクチャな動き……」

「あのねえ、男が腰使うのは当然のことなの。入れただけじゃ気持ちよくないでしょ。それを、いちいちヒドイとかイヤらしいとか言ってちゃ、アンタ一生、やれないよ」

「いいもん！一生できなくたって平気よ！」

由布子の言葉には強い決意がみなぎっていた。

冴子は「あきれた」と手をあげ、隣りの舞と目くばせしあう。

――ホント、ヘンにおタカくて、甘ちゃんなんだから、由布子は……。

舞は胸の内でそっとため息をついた。

一昨日の深夜、由布子が抱きかかえられるようにして良明のマンションに入るようすを、冴子とともに満足のような不安のような複雑な心境で見送った。

今朝は、その初体験報告を楽しみに登校してきたというのに、由布子は学校内では一言もしゃべらず、この店に入ってからも泣きごとばかりでいっこうに埓（らち）があかない。舞は、なだめる作戦に出ることにした。

「ねえ、由布子……べつに無理やりやられたわけじゃないんでしょう？愛撫されたときなんかもいやだったワケ？」

由布子は答えない。

舞は困ったように前髪をかきあげながらつづけた。

「気持ちよかったでしょ？ねえ、正直に答えなさいよお」

少し迷ったのち、由布子は小さくうなずいた。

それに力を得た舞が、ここぞとばかりに説得にかかる。

「ホラね。アレって気持ちイイもんなのよ。そりゃ最初のうちは入れるときだけ痛いけど、それだっていまになくなって、全部気持ちよくなるわよ。ね、冴子？」

「ホント、ホント。そうなっちゃえば痛かったことなんてスッカリ忘れちゃうよ。舞なんかさ、ずっと昔のことなんで全然思い出せないくらいだもん」

「あのねえ。冴子だって似たようなモンでしょうが！」

二人のやりとりを聴いているうちに、しだいに気持ちが楽になってくるのを由布子は感じた。

良明とその行為に対する恐怖が消えたわけではなかったが、それまでのような激しいものは薄れてきた。

――そういえば、あたし黙って出てきちゃったんだっけ。

一度電話ぐらいはしといたほうがいいかな……。

今朝、クズカゴへ丸めてほうりこんだ良明の名刺。

それが捨てられず残っていることを心の隅で願っているオカシな自分に、由布子は気づいた。

---

午後六時少し前。

屋根裏部屋を思わせる天窓からは、西の空はるか遠く沈もうとする夕日が絶景だ。

恋人の武川道雄（たけかわみちお）の腕にしなだれかかるようにして立ったまま、冴子はうっとりと夕日に見とれていた。

冴子が由布子をなんとかなだめてパーラーを出たのが四時。

大いそぎで上りの急行に飛び乗って、例によって池袋のデパートのトイレで私服に着がえ、渋谷に着いたのが五時五十分。

約束のＴという喫茶店には、すでに武川が待っていた。

武川は冴子を認めると即座に席を立ち、冴子をせかすようにして店を出た。

二人は暗黙のうちに、足を道玄坂に向ける。

そして、いま、この部屋――ファッションホテルの一室で全裸になって寄りそっているのだ。

「いつも悪いとは思っているよ。急がせてばかりで、ゆっくりデートも楽しませてやれない。こんなところでしか会ってやれない」

武川は、いかにもすまなそうに、おのれの腕に身をまかせきりで目を潤ませている冴子を見つめた。

冴子はなにも言わず首を二、三度小さくふっただけだ。

「……冴子……」

たまりかねたように武川は冴子を抱き寄せ、背骨も折れよとばかりに激しくかき抱く。

――あと十年はやくめぐりあっていたら……。

武川の胸に歯がみしたいほどの口惜しさがこみあげてきた。

武川は冴子を本気で愛していた。

出会いこそテレクラという欲望むきだしの媒体を通じてであったが、二度、三度と逢瀬を重ねるにつれ、冴子の愛くるしさと、またそれに相反して豊満に実った若い肉体の魔力にのめりこんでいく自分を感じていた。

しかし、日本橋に本社を持つＮ――という証券会社の課長クラスである彼は、日々多忙であった。冴子と会える時間はわずかしかない。

「いいのよ……だって、オジさまお忙しいんですもの。残業だってあるのに、いつも冴子のために時間作ってくれて……あたし、それだけでいいの……」

イヤイヤするように頭を武川の胸に押しつけながら、冴子は甘くささやいた。

「いいのか？本当に……こんな……食事もできない……ただ体だけの逢瀬でも、冴子は本当に幸せなのか？せめて、オレがもう少し自由なら、もっとおまえの好きな場所へ連れてってやれるのに……こんなホテルでなしに………」

武川は口惜しいと言わんばかりに、さらに冴子をきつく抱きしめた。

「平気よ。気にしないで。冴子、オジさまとこうしてられるだけで幸せだから」

冴子は抱きすくめられる恍惚感のなかでつぶやくように言う。

半分は本心であった。

デートもなにもなく、ただセックスするために会う――そんな二人の関係を冴子は少しも不満に思ってはいない。

かぎられた時間のなかで激しくおたがいを求めあう行為が、なにか究極の恋めいていて好きだった。

抱きしめられる力が少し弱まったとき、冴子はゆっくりとひざまずいた。

武川の脇腹から腰骨、そして太腿のつけ根へと指を這わせていく。

最終的に男のたくましいモノを両手で包む。

「ステキよ……オジさまのってステキ」

本心から愛しむように掌で撫でたあと、冴子はそれをやんわりと口に含んだ。

ペニス特有のツルリとした舌触りが冴子の官能を熱くくすぐる。

喉の奥ギリギリまで深く頬ばると、その裏側の縫い目を舌先で前後に舐めしごく。

「くっ！うう……か……感じるぞ！」

武川は身を震わせた。冴子の口のなかでおのれのモノが急ピッチで膨脹していくのがわかる。

冴子の舌が、ペニスの砲身を巻きこむようなからめた動きに変わった。

なまあたたかい舌の表裏すべてを使って男をなぶる。冴子の得意技だ。

「お……おおっ！冴子……冴子……」

武川はいよいよ膨脹しきって、みずからも腰を揺らしはじめた。

亀頭の先端部が冴子の上あごをこすりあげるようにして、徐々に奥へと侵入してくる。

「ぐえッ、ぐぐ……うぐッ！う……」

冴子の喉が、いまにも嘔吐しそうなエゲツない音で鳴った。

しかし、冴子にとってこんなことは苦痛でもなんでもない。

ことフェラチオにかけては冴子はソープ嬢並みに百戦錬磨なのだ。

なにせ、はじめて男のモノを含んだのが小学校三年のときなのだ。

キャリアがちがう。

冴子にフェラチオの味を教えこんだのは、小宮という四十近い建築設計士だった。

父親の友人でもある小宮は、しばしば冴子の家を訪れ、両親も忙しく兄弟もいない冴子の遊び相手になってくれた。

けれど、冴子の憶えているかぎりでは、普通の遊びは一度としてしたことがなかったようだ。

いつも『秘密の遊び』と称して、冴子の体をいじり、そして最後にかならずファラチオをさせる。強要ではない。冴子自身も喜んでやっていたのだ。

いつしか、これが父親に知れ、小宮は二度と訪ねてこなくなったが、冴子にとって、これは忘れられない記憶となった。

なぜか中年男ばかりに目がいってしまうのも、この経験が原因ではないか……と、冴子自身、ときどき思うことがある。

――ああ……たまんないわ。

口のなかでヒクヒクと脈打つ武川を、冴子は唇できつくはさみこんだ。

根元を両手で持ちながら、顔全体を前後に動かす。

雄叫びを発した武川の腰がわななく。

その反応が見たいとでもいうように、冴子は上目づかいに武川の顔を見あげた。

「冴子……やめてくれ。そんな目で……見ないでくれ……冴子ッ！」

武川は言いようのない気恥ずかしさにさいなまれていた。

四十歳に手が届く今日まで中年太りに悩むこともなく、服さえ着けていれば“背が高くてスマートなナイスミドル”で通る武川も、やはりハダカになれば腹の肉のたるみや、胸の筋肉の薄さが目立った。

顔とて、さほどイイ男というわけではない。

冴子のような若い娘に、しかも含まれながら凝視されて平然としていられるほどの肉体ではないのである。

「やめなさい、やめるんだッ」

たまりかねたように武川は腰を引いた。

抜けはじめたペニスを逃がすまいとするかのように、冴子の唇がねっとりとからみつく。

「おッおおッ！」

武川の体が緊張した。

冴子の唇にしぼりこまれた瞬間、放出しそうになるのを少し洩れだした程度でなんとか持ちこたえる。

冴子は亀頭だけ口に含んだまま、割れ目の先端ににじみだしたザーメンをすするように舐めた。やっと口を離す。

少し怒った表情で武川は冴子を抱きあげた。

そのままベッドに運び、ドサッと手荒におろす。

間髪を入れずのしかかり、一気に正常位でインサートした。

「ああッ！もっとッ、もっと深くよッ！冴子の体をどこまでも突き刺してッ！」

冴子の顔が歓喜にゆがんだ。

肉ひだをこじ開けて奥まで侵入した武川のペニスが、はやくも子宮の入口をエグりはじめている。

その状態のまま、武川は冴子の両脚を肩にかつぎあげた。冴子を二つ折りにする勢いで、体重をのせて腰を突き落とす。

ペニスはさらに深みへとこじ入った。

「あっひいッ、ああ、ダメッ、ダメッたらあ！だ……だって……ああ、そんなの痛くてイヤアーッ！」

肩にかつがれ宙に浮いている両脚をバタバタさせ、冴子は激しく抗った。

武川のモノが突き入るたびに、十代のまだかたく閉じた子宮口が痛みにわななく。

とうとう、冴子は体を反転させて自分から床にころげ落ちた。ベッドの上に不満顔の武川だけが残っている。

「どこまでも突けといったのは、冴子だぞ」

「だってえ……オジさまのって長いんだもの、そんな強くされたら、冴子、こわれちゃう」

無邪気ともいえる表情でそう言われると、どうしても怒る気が失せてしまう武川である。

たしかに武川の持ち物は平均より長かった。ゆうに二十センチは超えている。

そんなモノでもろに突きまくられたら冴子だってたまらない。

「ねえ、バックからほしいわ。いいでしょ？」

武川が拒むはずがない――といった自信に満ちた要求だった。

四つん這いになった冴子の上に、武川が犬のように押しかぶさる。

「ダメェ、そんなのイヤッ！アレがいいの。ねえ、アレでやってぇ！」

男の前でしおらしくふる舞うのはお手のものの冴子ではあるが、いざ燃えあがってくると、やおらふだんのワガママさが顔を出す。

武川は、そんな冴子に振りまわされる自分を情けなく思いながら、それでも望みどおりにしてやる。

一度立ちあがり、つぎにヒザを曲げて中腰姿勢をとった。

股間の位置を冴子のヒップの高さに合わせるのだ。

そのままの不安定なかっこうで、冴子のクリッと張りのあるヒップをつかんでひき寄せる。

やがてペニスは冴子の陰部に埋まったが、半分ほどで冴子のストップがかかった。

「このくらいがいいわ。オジさま、動かないでね。冴子がちゃんとファックしてあげる」

浅いインサートの感触を楽しむように、冴子はこきざみに腰を揺らした。

その動きはしだいにせわしなくなり、ときおりヒップを突きだして、深く武川を呑みこんだりもする。

「冴子、すごく感じるわッ、ああッイイッ！」

冴子は激しく興奮していた。

ヒップを振りまわすと、その熱くなった花びらに埋まりこんだ男根が出たり入ったりをくり返す。

そんな淫らな光景を目の前に見せつけられ、武川の体は一気に射精寸前まで昇りつめてしまった。

「ダメよ、オジさま、まだダメッ。

いま出したら、冴子、オジさまと別れるわよッ！」

イニシアティブは完全に冴子の側にあった。

---

土曜の夕刻、渋谷の公園通りは人の波であふれていた。

ビルの二階にあるピザハウスの窓から下をながめては、舞はホッとため息をつく。

――よくまあ、こんなにヒマジンがいるもんだ。

ま、あたしも、そのうちのひとりだけどさ。

自分とテーブルをはさんで向かいあっている男に視線をもどす。

斉藤という一年先輩の男。

皿のピザをたいらげることに一生懸命で、顔をあげる気配すらない。

――見込みちがいだったなあ……。

胸のなかでつぶやいて、舞はジンジャエールのストローを唇にはさむ。

斉藤からは以前から声をかけられていた。

例によって“来る者は拒まず”の舞であるから、さっそく誘いに乗ってデートという運びになったのだが、なにやら雲ゆきがおかしい。

たしかに彼はカッコイイ男だった。

バスケ部のキャプテンだっただけあって、二メートル近い長身。

すんなりと長い足。顔も悪くはない。

しかし、彼は、あまり場慣れしていなかった。

渋谷へもほとんど来たことはないらしく、右も左もわからない。

どこか店に入るにしても、すべて“舞におまかせ”だった。

ことに始終まわりを気にするような態度が気にくわない。

舞にとって、スマートに女のコのリードができない男はサイテー、なのだ。

――まいったな……あたしの男を見る目もおとろえてきたもんだぜ。

自己嫌悪的な悲哀をこめて、店のなかを見まわした舞は、ふと、あるテーブルで目を止めた。

目立つカップル。まだ五月だというのにはやくもきわどいタンクトップで色白の肩を出している化粧の派手な女、そして男のほうは、シンプルな白の綿シャツをラフに着こなし、長い足を窮屈そうに折り曲げ煙草をふかしている。

「あ……ＢＭＷ……？」

たしかに良明だった。

一瞬、席を立って声をかけようかと思ったが、やめた。

どうも、そういった雰囲気ではない。

「どうしたの？」

「あ……うん。なんでもない。ちょっと知ってる人に似た人がいたから………人ちがいみたい」

やっと顔を上げた斉藤にとりつくろうように答える。

が、目は良明のテーブルから離れない。

――誰だろう、あの女……モデルかしら？

仕事柄、モデルと食事をしてたって変ではない。

その女はたしかにモデルといってもいいくらい美人だった。

が、仕事がらみにしては少し二人がなれなれしすぎる。

少しして、良明は女の肩を抱いてピザハウスを出ていった。

そのまま、二人は肩を寄せあうようにして公園通りの雑踏のなかへ消えて行った。

舞は、なにかしらスッキリしないといった面もちで、それを見おろしていた。

---

良明は女の肩を抱いたまま、右手を上げた。

空車がすべりこんできて二人の前で停まる。

「広尾まで……」

タクシーに乗りこみ簡単に行き先を告げた良明に、女が体をすり寄せてきた。

「あなたの部屋に入れてくれるの？今夜はほかの女の先客がないってことかしら？」

女は上目づかいに笑った。

「いつも、そうさ。佐和子、おまえなら、いつだって部屋にあげてやる」

「う、そ、つ、き。スペアーキーもくれないくせに、よく言うわ」

二人はそのまま熱っぽく唇を合わせ、運転手が不快そうにしているのを気にもとめず、抱擁をつづけた。

そして、いま良明の部屋で二人の全裸の肉体が淫らにからみあっていた。

「あ……あふ……い、いい……あ、あ……」

女――佐和子の喉から、たえまないすすり泣きが洩れる。

良明のうめくような声とベッドのきしみが、それに重なっている。

良明は佐和子の白い裸身にのしかかり、腰から下だけを小さく律動させていた。

あまり深い挿入ではなく、おもにクリトリス部分を摩擦するための動きだ。

「ああッ、すごいッ！いいッ、いいわあッ！あたし、これが、すきよッああッ！」

佐和子のしなやかな両脚がしだいに上がってくる。

やがて、それは天井に向けてピンッと伸びきった。

「だいぶ感じてきたな……そろそろ、ほしくなったか？」

「ほ、ほしいッ！はやく、ちょうだいッ！」

高々と上がった女の脚を、良明はおのれの両肩にかついだ。

上半身を起こしぎみにして、一息に結合部分へと体重をかける。

「あうッ、あ……ああ……いやあッ！ああッ、たまんないッ」

良明の腰の律動は、さきほどとはうってかわって激しいものとなった。

佐和子の二つ折りの体を押しつぶすような勢いで、間をおかず幾度も幾度も打ちすえた。

ペニスはえぐるように佐和子の秘所にのめりこんでいく。

「ああッステキッ！イクッ、イク――ッ！」

そのときだった。リビングの電話が鳴った。

一回、二回……良明は弾かれたように佐和子の体から離れると、コール四回目で勢いよく受話器を取りあげた。

耳の奥におずおずとした少女の声が響く。

良明の口元に安堵の笑みが浮かんだ。

「由布子ちゃん、だね。よかった……もう電話してもらえないかと思ってたよ。いつのまにかいなくなってたから心配してたんだ」

電話のむこうで由布子が小さく『ごめんなさい』とつぶやいた。

「いや、あの日はオレが悪かったんだ。つらい思いさせて、ごめん。そうだ、明日、時間あるかな、おわびに夕食をごちそうするよ」

由布子がためらっているのがわかった。

が、良明はそれに気づかないふりで話を進める。

「明日……そうだな、五時でどう？六本木のアマンドの前に停めとくよ。きみが来るまで何時間でも待ってる」

由布子はまだなにか言いたそうだったが、良明はこちらから一方的に切ってしまった。

そして即座に短縮ボタン１を押した。すぐに冬人が出た。

「ああ、オレだよ。いま、由布子から電話が入った。ああ、明日、食事のアポをとった。たぶん九〇パーセントの確率で来る……ああ、わかってるさ。そう何回もドジは踏まないよ。またあとで連絡する。うん、じゃな」

一息にしゃべり終えると、良明は悠然と煙草に火をつけた。

満悦の表情だ。良明には自信があった。由布子はかならず来る。

――二度と会いたくないと思っていたら、女は電話なんかしやしないさ。

それは、いままで数多くの経験から得た持論だ。

鼻歌まじりに部屋を歩きまわる。

――問題は今後のやり方だな。

明日はひとまず食事だけでまっすぐ送り届けて、次回からじっくりとセックスの楽しみを仕込んで……。

「ずいぶん楽しそうじゃない。新しい女？」

イヤミ半分の佐和子の言葉に、良明は首をすくめながら足を止めた。

――そういやあ、コイツを抱いてたんだっけな。すっかり忘れてた。

良明の顔がとりつくろうように優しくなる。

「悪かったな。イイところでほっぽりだして」

「どういたしまして。でも、あの最中にはぜったい電話に出ないはずの良明が、どういうワケかしら？」

「気になるか」

佐和子は答えずに、プイと横を向いた。

「じゃあ、気にしてられないようにしてやる」

良明はベッド脇の小さな引き出しから不思議なものを取りだした。

バイブレーターのようだがこころもち細めで長さも短い。

それを見たとたん、佐和子の顔から血の気が引いた。

「いや、よ……あたし……それはいや……」

良明は佐和子の言葉など無視した。

ベッドの上を後じさる佐和子を押さえつけ、無理やりに、それをアヌスにインサートしたのだ。

接続コードが出ている部分を少し残して、それは深く直腸のなかに埋まってしまった。

ブーン。

特有のうなりが始まった。

直腸のなかのバイブはこきざみに振動しながら、生き物のようにくねりだした。

「あっひいっ！だめッ、苦しいッ、大きいのしたくなっちゃうから……やめてえ――ッ！」

のたうつ佐和子の両脚を、良明はふたたび肩にかついだ。

そして、おのれの一物をまたさっきと同じ場所、ヴァギナに打ちこんだ。

「ぎゃっ、やだッ！どっちかにしてッ、いやあッ、出るッ、出ちゃう――ッ！」

ブリッといういやな音がした。ヴァギナとアヌス両方で腹部が刺激され、ガスが洩れてきたのだ。

佐和子の大きな瞳はキツネのようにつりあがり、苦痛に唇を噛みしめている。

もはや、良明の新しい女を気にするゆとりなぞ失せていた。

「いやッ！良明なんてキライッ、もうッ、もう、イヤよ――ッ！ああっだめえッ」

佐和子の顔がひきつった。

---

「ユウコって子、どんな娘（こ）か知らないけど、だまされてるとも知らずかわいそうにねえ」

コトが終わり、疲れはててベッドに突っぷしたままの佐和子は身動きもせずにつぶやいた。

「だましちゃいないさ」

「へえ、そう。あたしはだまされたって、いまでも思ってるけど……あんとき、良明にひっかけられなけりゃ、あたしだってもっとマトモな生活してるはずよ」

佐和子は新宿のＭというファッションマッサージの店で働いている。もう一年になる。

――そうよ。あの日、家出なんかしなけりゃ、いまごろはどっかのバカ短大ぐらい入れたかもしれないのよ。

佐和子の家は横浜にある。

なんとなく面白くなくて友だちと二人、家を飛びだしたのが高三になる少し前。

盛り場をフラフラしていて良明と知りあったのだ。

「オレは佐和子をひっかけた覚えはないけどな。そうだろ？」

「そうね。たしかにナンパはしなかったわ。

忠告顔で『こんなとこフラフラしてるとあぶないぞ』なんて言ったわよね。それで、あたしら安心してノコノコくっついていっちゃったのよ。

ホント、良明ってウマいんだから！」

佐和子にニラまれて、良明は中途半端に笑っただけだ。

佐和子は良明にはじめて抱かれた日のことを、あまりよく覚えていない。

いつのまにかそういう関係になっていたのだ。

そして、いつのまにかファッションマッサージ嬢になっていた。

一緒に家出した友だちも同じような仕事に就いている。

「いまの仕事、いやならやめてもいいんだぞ」

「よく言うわ。マッサージやめたら、良明はあたしのことなんか相手にしなくなるくせに。

高額所得者の佐和子が好きなんでしょ？」

佐和子の収入は月七十万近くある。その半分以上を良明に貢いでいるのだ。

いや、正確には良明と冬人に、だ。佐和子は二人の共有の女だった。

「こんないいマンションに住めるのも、あたしのおかげなんだから。感謝してほしいわッ」

佐和子は端正な顔をツンとそらせた。

――これがなけりゃ、いい女なんだがな。

毎度のことながら、うんざりさせられると思いながらも、良明は優しいフリの男の仮面をはずさない。

「そんなにムクれるなよ。おまえには感謝してるさ。だから機嫌なおせよ」

良明の手が佐和子のたっぷりとしたヒップを撫で、ゆっくりと、その割れ目に侵入してゆく。

「あっだめよッ、痛いわッ、いやだったら！」

バイブ挿入で痛めつけられたアヌスを良明は指で軽くなぞる。

佐和子の体がピクッと震えた。

「今度は、ここにオレのを入れてやろうか？」

「いやッ、いらない。だめよ、こわいッ！」

が、佐和子の下半身はすでに昂まりを見せ潤いはじめていた。

良明がラブジュースでしめらせた佐和子のアヌスにペニスを押しあててきたとき、佐和子は自分から膝を立ててヒップを持ちあげ、襲いくる衝撃と快感を待ちこがれていたのだ。

参考資料